大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 昭和31年(ヨ)178号 判決

申請人 平田辰男

被申請人 川崎製鉄株式会社

主文

本件仮処分の申請を却下する。

訴訟費用は債権者の負担とする。

事実

債権者代理人は、「債務者が昭和三一年四月二四日付をもつて債権者に対してなした解雇の意思表示の効力を停止する。」との判決を求め、その申請の理由として次のとおり述べた。

「一、債権者は昭和二四年一一月一七日債務者会社(以下会社という)に工員として雇われ同会社葺合工場に勤務していたが、会社は同三一年四月二四日債権者に対し右雇傭の際債権者が経歴を詐称したことを理由に就業規則第一〇六条第一四号に該当するとして懲戒解雇の意思表示をした。同条は「左の各号の一に該当するときは懲戒解雇に処する但し情状により出勤停止に止めることがある」と定めその第一四号は「年令住所経歴扶養家族数等雇傭の際の調査事項を偽りその他不正の方法を用いて雇入れられた者」と規定している。而して右懲戒解雇は、債権者が昭和一九年三月鹿児島県姶良郡富隅尋常高等小学校高等科を卒業同二〇年四月鹿児島県国分農業学校農業土木科に入学し同二三年三月同校を卒業同年四月明治大学専門部法科本科第一学年に入学したが翌年三月中退したのにかかわらず、雇傭に際し提出した履歴書にはその旨を記載しないで学歴としてただ右小学校高等科を卒業した旨記載したことを問責するものである。

二、しかしながら右の懲戒解雇は次の点で無効である。

(一)  債権者の右の詐称は就業規則にいわゆる経歴詐称に当らない労働契約において労働者の提供すべきものは労働そのものである。ところで債権者は前記のように学歴を真実より低く呼称したにすぎず言いかえれば素質の優れたものを劣つたものとして労働の提供を約したにとどまる。従つて労働契約によつて提供すべき労働に何の欠点もないわけであるからこの点責められるべきいわれはない。もつとも労働そのものといつても労働者の人格から確然と切り離すことはできず人格が附随するけれどもその人格も労働そのものに欠陥を生ぜしめない程度のものであれば問題視されるべきものではない。本件にあつて或は経歴を詐つたことから債権者は詐りを言うくせがあるということが問題になるかもしれないが、債権者が経歴を小学校卒業程度にとどめて申告したのは、債権者が父は戦死し母と弟妹五人家族で家計苦しく親戚の援助によつて一度は明治大学専門部法科に入学したものの家計の窮状をみるにしのびず退学して就職しようと決心し職を探し求めたが容易に見当らずたまたま会社が工員を募集していることを知つて就職したさの一心からなしたもので、このように急迫した事情の下にあつてしかも自己の学歴を過少に称するのであるから差支えないとの考えの下になされたものであるから、右の詐称がそれ自体必ずしも責められるべきものでないばかりでなく、この一回の事実をとらえて詐るくせがあるとすることはできない。仮え一回でも詐りを使うこと自体人格的欠陥であるとしても前述のように労働そのものの欠陥をきたさない程度のものであるから締結されている労働契約に消長を及ぼすものといえない。そもそも就業規則は作業能率の増進と経営秩序の維持とを目的とするものであるが、本件詐称は右のように作業能率経営の秩序に影響を及ぼす点は全くないのである。これを以てしても不正というならばそれは素質の低い労働者を集合して意のままに牛馬のように働かせようとする前近代的使用者の独断にすぎない。そうであるから債権者のした詐称は就業規則にいわゆる経歴詐称に当らない。

(二)  仮に就業規則にいう経歴詐称に当るとしても、本件解雇は解雇権の乱用である。

成程就業規則には懲戒の一場合として経歴詐称を掲げているがその具体的適用は使用者の恣意に委ねられているのではなくそれに基き懲戒解雇をするには労働者を企業外に放逐することを相当とする程度の重い情状の存することが必要である。ところで債権者は入社以来解雇に至るまで六年六ケ月の長期にわたり在籍しその履歴の詐りであることは周知の事実となつていた。殊に従来から会社は組合員が組合執行部に出れば必ず身元調査をする慣例であり債権者のように入社後僅か一年四ケ月で執行委員に選出されたような人物について調査をしないということはありえない。従つて債権者は雇傭に際し経歴を詐称したとはいえすでに長期間会社に在籍しその間会社においてもその事実を知つていたので雇入当時の詐称の事実は時の経過と共にその情状は軽微となり現在では雇入当時と同様の企業に対する反価値的判断をすべきではない。而して本件において詐称したという経歴も高きを低きに詐つたもので会社に対し何の損害も与えておらずしかも家庭の事情からやむをえずしたことは前述のとおりであるから、就業規則によつて懲戒をするにしてもせいぜい第一〇六条但書「情状により出勤停止に止めることがある」を適用して出勤停止に処すべきものであるのに直ちに解雇をもつて臨むことは著しく過重な措置で解雇権の乱用であり無効といわざるをえない。

三、債権者は本件解雇の無効確認の訴を提起すべく準備中であるところ、現在債権者は川崎製鉄株式会社葺合工場労働組合専従者として組合から受ける給与によつて生活しているが、解雇されたものとして取扱われるならば会社と組合との間の基本労働協約第七条「組合員は工場所属の工員に限る」との規定から組合員として取扱われないことになり従つて組合から給与を受けることができなくなり、右訴訟の確定をまつては日常の生活にも支障を生じ著しい損害を被るからこの損害をさけるため本件解雇の意思表示の効力の停止を求める。」

なお「債務者は債権者が串良海軍航空隊予科練習生となつたが取消になつているのに履歴書にその記載がない点をとらえて詐称があると主張するが、これは、債権者は串良海軍航空隊予科練習生として入隊予定になつていたが奈良海軍航空隊に入隊することに決つたので右を取消して行かなかつたのでその事項を記入しなかつたまででそこに何の詐称もない。なお債権者は明治大学専門部法科本科を授業料滞納無届欠席のかどによつて学籍整理により除籍されたものであり、債務者主張のように不正行為によつて除籍処分を受けたものでは決してない。」と述べた。

債務者代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として次のとおり述べた。

「一、債権者主張事実のうち、債権者は昭和二四年一一月一七日債務者会社に雇われ葺合工場に勤務していたものであるが、会社は同三一年四月二四日債権者に対し債権者主張のような就業規則第一〇六条第一四号の規定により雇傭の際の経歴詐称を理由に懲戒解雇の意思表示をしたこと、債権者がその主張の日時各その主張のように富隅尋常高等小学校高等科を卒業し国分農業学校農業土木科に入学し同校を卒業して後同二三年四月明治大学専門部法科本科第一学年に入学して翌年三月まで在学したこと及び債権者が雇傭に際して会社に提出した履歴書に学歴としてはただ右小学校高等科を卒業した旨記載して申告したことは何れもこれを認める。

二、債権者に対し本件懲戒解雇をしたのは次のような経歴詐称があつたからである。

すなわち債権者は、昭和一九年三月富隅尋常高等小学校高等科を卒業し同一九年一一月一五日鹿児島県串良海軍航空隊予科練習生となつたが取消、同二〇年四月国分農業学校農業土木科に入学して同二三年三月同校を卒業、同年四月明治大学専門部法科本科第一学年に入学したが同二四年三月不正行為により除籍された経歴を有するものであるが、債権者が会社に提出した履歴書によると、債権者は昭和一九年三月右小学校高等科を卒業、同二〇年七月から八月まで奈良海軍航空隊に二等兵として勤務、同年九月から同二四年一〇月まで本籍地(鹿児島県)において漁業に従事とあり、なお賞罰はない旨申告しているのであつて、その詐称の事実を摘記すれば次のとおりである。

(一)  串良海軍航空隊予科練習生となつたが取消になつているのに履歴書にはその記載がなく、他方履歴書によると奈良海軍航空隊に二等兵として勤務した旨の記載があるがその事実はない。

(二)  約四年間漁業に従事した旨履歴書に記載されているがその事実はない。

(三)  旧制甲種実業学校である国分農業学校に入学して同校を卒業し更に明治大学専門部法科本科に入学し一年在学したのにかかわらず履歴書には学歴として小学校高等科卒業とのみ記載した。

(四)  明治大学専門部法科本科を不正行為により除籍処分を受けているのにその事実を秘匿して履歴書には賞罰事項はない旨記載した。

三、右の経歴詐称は就業規則第一〇六条第一四号に該当しその情状は重い。

すなわち、会社においては一般の工員の採用は原則として旧制小学校(新制中学校)卒業者のみをその対象とし採用の決定は各工場長に委されているがそれ以上の学歴を有する者は通常工員として採用せず特別の事情によつて銓衡する場合も本社人事課において処理する内規になつている。ところで、債権者は甲種実業学校を卒業しているのにかかわらず最終学歴を小学校卒業としたため工員として担当葦合工場長において採用決定をなしたが、その結果会社としては債権者の雇傭について当然ふまなければならない採用手続をとつていないことになる。この点のみでも懲戒解雇に値する。

又これを実質的にみても、会社が工員を採用する場合の基準は純筋肉労働者としての体力と技能とであつて学歴の高低ではない。会社は債権者提出の履歴書によると約四年間漁業に従事していたとありこの記載を信じて筋肉労働者に適すると判断して工員として採用した。然るにこの間在学していたのであるが、この事実が明らかとなつていたならば工員として採用しなかつたのである。故にこの点工員としての採用決定について重大な錯誤をきたしたのである。

更に債権者は明治大学専門部法科を不正行為によつて除籍されたものである。会社はその不正行為の内容については種々調査を進めたけれどもそれを明らかにすることができなかつたが、青年を教養指導する大学が除籍処分を行うような不正行為はよくよく悪質の行為であることは十分推測されるのであつて、このような不正行為を犯したことは本人の性格の大きい欠陥を物語るものである。そしてこのような本人の性格を判断する上に重要な処罰事項が雇傭の際明らかになつていたとするならば当然採用を見合せるところであつて債権者がこの事実を秘匿したため会社は雇傭契約上重大な錯誤をきたしているのである。

要するに債権者は雇傭の基礎となる学歴その他の経歴を詐称しただけでなく雇傭すべき人物かどうかを判断する上に最も重要性を持つ処罰事項を故意に秘匿したものであつてこのようなものを解雇しないで放置するならば経営の秩序を乱し会社は重大な危険にさらされるのである。

四、債権者は本件解雇は解雇権の乱用であると主張するが、前記のように本件詐称の事実は重大である。学歴の高きを低しと詐ろうが低きを高しと詐ろうが詐称であることには何の相異もない。しかも会社は昭和三一年に入つて債権者が明治大学に在学したことがある模様を聞知して調査の結果始めて詐称の事実を知つたので雇傭後すでに数年を経過したけれどもそれだからといつてその情状が軽微になるものではなく、又債権者は家庭の事情のため就職に迫られやむをえず学歴を秘匿したというが、債権者は自らの不正行為によつて学校を放逐されたから働かざるをえなかつたに過ぎないのでありその点情状を酌量する余地はない。従つて会社として懲戒解雇をもつて臨んだことは相当で解雇権の乱用にわたる点は全くない。

五、以上のとおりであるから本件解雇は有効であり債権者の申請は理由がない。」

(疎明省略)

理由

一、債権者が昭和二四年一一月一七日債務者会社に工員として雇われ同会社葺合工場に勤務していたこと、就業規則第一〇六条第一四号は債権者主張のように規定されているが、会社は同三一年四月二四日債権者に対し右規定を適用して雇傭の際の経歴に詐称があるとして懲戒解雇の意思表示をしたこと、債権者が昭和一九年三月富隅尋常高等小学校高等科を卒業し同二〇年四月国分農業学校農業土木科に入学し同二三年三月同校を卒業してから同年四月明治大学専門部法科本科第一学年に入学して翌年三月まで在学したこと及び債権者が雇傭されるに際し会社に提出した履歴書に学歴としてただ右小学校高等科を卒えた旨記載して申告したにとどまることは何れも当事者間に争がなく、右会社に提出した履歴書には右学歴の記載以外に、同二〇年七月から八月まで奈良海軍航空隊に二等兵として勤務した旨並びに同二〇年九月から同二四年一〇月まで本籍地において漁業に従事した旨を記載して申し出、賞罰事項については共にない旨記載して申告したことは成立に争のない乙第二号証の一、二によつて認めることができる。

二、そこでまず債権者の経歴詐称行為が就業規則第一〇六条第一四号に該当するかどうかについて判断する。

およそ近代的企業にあつては使用者が労働者を雇入れるについては労働力を企業内における労務の配置構成管理等一定の経営秩序の中に有機的継続的に組織づけ企業の生産性に寄与することを期待するものであるが、そのためすでに雇入れた労働者に対し適正な組織づけを要するのは勿論、進んで新たに雇入れられる際にあらかじめこのような組織づけを可能ならしめるための調査をすることが要請される。すなわち労働者の雇傭に際しては当該労働者の技能その他の成績はもとよりそれが関係部門の他の労働者に直接間接に及ぼす影響等諸般の事情を考慮し組織体としての企業における位置づけを予定した上、その技能は勿論知能教育程度識見性向健康等について全人格的判断をなしこれに基いて採否を決定するわけで、その調査の主要な一資料として履歴書等を提出させて経歴を申告させるのである。しかるに労働者が経歴詐称等詐術によつて雇入れられるならば労働者の組織づけに支障をきたし企業に対する損害発生の危険いわば抽象的危険が存することとなるのであり使用者としては経営の秩序を全うし生産性を高めるため何等かの具体的危険の発生をまつまでもなく企業の存続に対する危険を排除する手段が構ぜられねばならない。

ここに経歴詐称に対する懲戒処分の存在理由がある。

この観点から以下債務者がとりあげている経歴詐称とする事項について検討しよう。

(一)、債務者は債権者が串良海軍航空隊予科練習生となつたが取消になつていると主張するが、それが如何なることを意味するかについて具体的な主張とそれに対する疏明がないからこれを経歴詐称として問題とするわけにいかない。又債務者は債権者が奈良海軍航空隊に二等兵として勤務した事実はないと主張するがその点も疏明がない。

(二)、債権者が約四年間漁業に従事した旨履歴書に記載したことは前記認定のとおりであるが真実はそのような事実がなかつたことは弁論の全趣旨によつて明らかである。しかし会社がそのため債権者が筋肉労働者として不適格であることを看過して雇傭したとの疏明もないから右の詐称の程度は軽微で特にとりあげて問題とするに足りないこの詐称は後記の学歴詐称と時期的にほぼ一致しむしろそれとの関連性が意味を持つと考えるのが相当である。

(三)、債務者は債権者が明治大学法科本科を不正行為により除籍処分を受けているのにかかわらず履歴書中に賞罰事項はない旨記載したという。

債権者が履歴書中に賞罰事項はない旨記載したことは前記認定のとおりであり、成立に争のない乙第五、第一一号証によれば債権者が同校を不正行為により除籍処分を受けたことが認められる。債権者は授業料滞納無届欠席のかどによつて学籍整理により除籍された旨主張しその旨の記載と明治大学の表示並びにその押印の存する甲第四号証を提出するが成立に争のない甲第一二、第一三号証に徴しそれが真正に成立したかどうかの点すら疑わしくその他右認定を左右するに足る疏明はない。而して右不正行為の具体的内容についてはこれを明らかにする疏明はないがその疏明がない以上大学が債権者の学業の継続を排除するのを相当と認定した程度の情状の重い不正な行為とみるほかはない。それでは右除籍処分は履歴書中に賞罰事項として掲記されなければならないものかどうかが問題となるが、履歴書中の賞罰事項にいわゆる罰とは特に学校における除籍処分等をも包含する意味で記載を求められた場合は広義に解してこれ等の事項をも含むものとする場合もないではないけれども通常一般はこれを狭義に解し刑罰及びこれと同視すべきもののみを指称するものとみるのが相当である。而して本件では特に右の意味で賞罰にいわゆる広義に解するものとしたとの疏明はないから債権者が罰として右不正行為による除籍処分を掲記しなかつたことは当然でありこの点は詐称とはいいえない。

(四)、債務者が学歴を詐つたという。

債権者が国分農業学校を卒業し明治大学専門部法科本科に一年在学したのにかかわらず小学校高等科卒業と詐称したことは前記認定のとおりである。このような学歴特に最終学歴は労働者の知能教育程度を判断する上に重要な経歴であることは疑いえないところである。従つて右の詐称は使用者が労働者に対する全人格的判断をする上に重大な影響を与えるというべきである。そうすると右学歴の詐称は就業規則にいう経歴の詐称に当るといわねばならない。

債権者は学歴を過少に申告したにとどまる場合は債権者の提供する労働は契約の趣旨に反しないから経歴の詐称に当らないと主張するが、使用者が雇傭に際し採否の決定をするのは前示のように企業に組織づけられる一員としての労働者の全人格的な判断の上に立つてのことであつて単に提供さるべき労働のみに着眼して評価判断するのではない。有機的な組職体をなす企業においてはその企業に組織づけられた労働者の具体的な労働の成果が問題なのであつてその組織を離れた一労働者の個別的抽象的な労働の良否は単にその前提をなす一要素であるにすぎない。従つてその組織づけを誤らせる結果となる行為はそれが学歴を過少に呼称した場合であつても過大に呼称した場合と同様に経営の秩序を乱し企業の生産性を阻害して企業に危険を及ぼすおそれがある。ただ過少に呼称した場合は過大に呼称した場合に比して企業に対する危険の度合が少ないことが多いであろうからその情状において考慮される場合が多いというにとどまる。そうであるから債権者の右の論旨は容れることができない。

而して成立に争のない乙第二号証の一によつて明らかなように債権者は雇傭当時未だ一九才にすぎなかつたから右学歴はその経歴中極めて重要な事項である点、前記認定のように債権者は明治大学専門部法科を不正行為によつて除籍処分を受けた事実が存し同校在学の事実を秘匿することによつて右除籍処分の調査を妨げる結果をまねくおそれがある点及び成立に争のない乙第四号証に証人桑江義夫の証言によつて明らかなように会社においては学歴によつて採用の手続を異にしている点をあわせ考えれば右学歴の詐称は重大でありこのような場合会社が解雇をもつて処置することは一応正当と認められる。他に右認定の妨げとなる疏明はない。

三、解雇権の乱用であるとの主張について、

債権者が会社に雇傭されたのは昭和二四年一一月一七日であり本件解雇が同三一年四月二四日であることは前段認定のとおりであつてその間約六年半経過している。ところで就業規則によると懲戒事由の存するときでも情状によつて出勤停止にとどめる場合のあることはこれまた前段認定のとおりであるが、成立に争のない乙第八、第九、第一〇号証に証人桑江義夫の証言によると会社が債権者の右経歴の詐称行為を探知したのは昭和三一年に入つてからのことに属することが疏明されその後程なく本件解雇に至つたのであるから、本件詐称行為の重大性を考えるときは右六年半の日時の経過によつても未だ解雇をもつて臨むことが不当であるとは考えられず他に何等か本件解雇が解雇権の乱用にわたるものと認めうる疏明もない、従つて債権者の右の主張は採用できない。

四、以上のように本件懲戒解雇の意思表示が無効であるとする主張は結局疏明がないことに帰するので本件仮処分の申請を失当として却下することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 中村友一 吉井参也 戸根住夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例